絵本制作録「かたつむりくんのかくれんぼ」

 2024年は僕にとって途方に暮れた一年となった。

様々なトラブルや社会の変化に振り回され、部屋にこもりがちな一年が続いた。何より影響が大きかったのは、マスク氏によるXの運営方針の改定だ。あの出来事により僕のSNSでの宣伝戦略は無意味なものとなってしまった。もはや今のXは、すでに影響力を持った人物にしかメリットが無いツールと成り果てた。その影響を鑑み、僕もメインのSNSをInstagramとBlueskyに移したが、失ったフォロワーを取り戻すことも、新たにフォロワーを得ることもままならない状況である。2023~2024年にかけて僕は「いいね」や「フォロワー」の数に固執する生き方をしてきたが、もはやそれらの数字は自らの人生において何の意味も成さないと気付かされた。知名度にこだわらない生き方をした方が、自分と率直に向き合えるし、自分と向き合うことを重視すればネットを見る機会は減るから健康的だ。ネットに四コマやイラストを毎日投稿して共感者を得ようとするやり方が自分と自分の画風には向いていないことを、2年の歳月をかけてやっと気付いた。

そこで今までの価値観を拭い心機一転を試みるきっかけとなったのは、Instagramをみていたとき偶然おすすめ欄に表示された「絵本大賞」の公募である。絵本か...考えてみれば僕の画風は、同世代の若者たちより現代や未来の子どもたちに向けて発信したほうがウケるかもしれない。それに未来の子どもたちに貢献できるかもしれない物を創る方が、自らの人生において大きな大義になると思う。よし、この公募に挑戦しよう!こうして僕の絵本作家への道がスタートした。

応募したのは、株式会社ニコモが運営する「YOMO絵本大賞」。公募となれば、主催側が指定する規定に従うことが前提だ。今回の絵本大賞のテーマは「知育」、子育てに貢献したり子どもの知性発達に役立つものを書く必要がある。対象年齢は乳児から幼児、つまり小学校に入る前までの子どもたちだ。大賞には賞金100万円、そして絵本の市販化。これは本気を出して取り組むしか無い!!自分の作風にできること、子どもたちの知性発達に必要な要素は何か分析し、ひねり出した答えは「かくれんぼ絵本」。あとは絵本の主軸を担うモチーフ、キャラクター作り。僕はいままで様々な生き物をオリジナルの画風で描いてきたが、最も好評だったのは猫でも犬でもウサギでもなく、かたつむりだった。

4コマ漫画で描いたかたつむり族

高校時代に適当に描いたかたつむりのキャラクターも、隣の女子が「グッズ化したら買う!」と言うほどだった。では主人公はかたつむりにして、かくれんぼをして子どもたちに見つけてもらう絵本にしよう!タイトルは、「かたつむりくんのかくれんぼ」!

かたつむりくんはかくれんぼが大好きで、みんなと遊びたいと思っているのんきな軟体動物。あくまでかくれんぼが好きというだけで、得意ではないが、小さな身体を自分と近いサイズの身近なモチーフに隠す。キャラクターの設定を決めて、絵本の終始の大まかな内容、つまり「起承転結」を決める。どんな始まりで、途中に何があり、どんな終わり方?設定した主人公にふさわしい展開というものが必ずあり、それを見出す作業だ。この作業は頭だけに頼らず、しっかりメモに残しながら進める。いわゆる「ラフ」だ。

いざ絵本制作を始めるにあたり、考慮することは多い。実際に原画を描き始める前に、図書館で絵本についての教科書を読み漁り、大事なことをノートに書き写した。公募主催が指定する原画サイズに合わせて画用紙を切り、同じサイズのコピー紙にラフを描く。納得のいくものが描けるまでやり直し、原画に入る際同じものが描けるように何度も繰り返し描く。それを32ページ分やる。と言っても今回の絵本は片方が文、もう片方が絵という構図なので実質絵のページは16ページ分、表紙裏表紙を含めると18だ。仕事量が比較的少ないからと言って油断してはいけない。やることは同じだからだ。重視したのは、子どもに見やすい画面を広々と使った構図。ディック・ブルーナ氏の絵本を参考にしながらも、自分がやりたいことは自分のやり方を優先する。そして子どもに分かりやすい言葉選び。子ども向けの絵本なので、子どもの身近にあるモチーフだけを選ぶ。というより、子どもに関心を持ってほしいモチーフを選ぶようにした。ピーマンや落花生がそれだ。カラダに良い。文と絵、それぞれ書く内容が固まったらいよいよ原画に入る。

原画作業において、「うまく描く」ことより「完成させる」ことより、何より一番大切なのは「原稿を一切汚さない・傷つけない」ことだ。これを失敗することが最大の損失だと思う。僕は最終ページを二度描き直す羽目になった。原画作業は、面接に行くときと同じくらい緊張感と集中力を持って取り組まないとすぐ油断して失敗する。作業机や自分の手、使う道具も常に清潔を保ち、不意に原稿が汚れないように気を配る。ラフの段階では一切気にしていなかった汚れや傷が、原画段階ではまるでスマホの画面が割れたときのように絶望するものだ。なのでこの上ない集中力と環境配慮が無いと、原画はきれいに描けない。そんな緊張感を、およそ20回経験し、やっと原画がすべて描き上がった。

原画は完成後も何度も見直し、傷がつかないよう厳重に封筒に入れる。応募サイトの要項を再び確認し、規定違反がないかチェック。クラフトパッカー、よく漫画家さんとかが原稿を入れる、紐でとめるタイプのマチ付き封筒に移し替え、主催側が指定する郵送先に送る。封筒は原稿を入れる前に住所を書き込んで置くこと。そうしないとペンの裏写りなどで原画が汚れる可能性があるからだ。郵送と同時に、自分の作品をホームページで申請。あとは祈り待つだけ。数日後、主催側からメールがあった。「文と著者プロフィールのテキストデータを送ってほしい」とのことだった。仕上がり見本と、原画に貼り付けたトレーシングペーパーに書き込んだ文では不十分だったらしい。著者プロフィールに関しては特に書くことが無かったのでSNSのリンクだけ書いて提出したがそれも不十分だったようだ。すぐに指定の内容をWordで送り、もう問題は無さそうだ。正式な発売を待つばかりである。

このブログを書いている時点では、まだ「かたつむりくんのかくれんぼ」は販売していないが、長くてもあと一ヶ月で発売するだろう。これだけブログに経験談を書いておきながら、もし絵本の発表が何らかの理由で中止されれば、僕はとんでもない恥さらしである。

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